青葉優一『王手桂香取り!』
いま大阪にいます。それで、発売後まもない本書を手にしました。
第20回電撃小説大賞・銀賞受賞の作品です。将棋がテーマということで、発売を一番楽しみにしていました。
中学1年の上条歩(あゆむ)は、3年の先輩で将棋部部長の大橋桂香にほのかな恋心を抱いていた。だが、五段の実力がある桂香に対し、歩はまだ初段。もとより色恋には関心がなく、日々将棋漬けの桂香を振り向かせるには、将棋の実力を付けて桂香に認めてもらうことだった。
そんな歩は今日も町の将棋道場で小学生に負けていた。しかし、その子はプロ棋士六段の息子で、アマ散弾の実力者だった。ただ、その子は親と同様に対局態度が悪く、少し懲らしめてやりたいと思っていた。だが、将棋ではまだかなわない。
そんな思いで負けて家に帰った歩の前に、突然3人の女の子たちが姿を表わす。関西弁を話す奔放そうな女の子、着物姿でお人形のような女の子、そしてヨーロッパ貴族の娘のように着飾った女の子。実は、3人とも将棋の神様で、それぞれ香、歩、桂馬の化身なのだった。
3人は歩とプロ棋士の息子の対局を観戦しており、やはり一度彼にギャフンと言わせたいから、言う通りに指せという。それで、プロ棋士相手でさえ飛車落ちで勝てるという3人のヒントで、歩は雪辱を果たす。
それから3人は、桂香が振り向いてくれるよう、歩に実力を付けさせるために特訓してやるという。そうして成長していく歩は、とうとう全国中学校将棋団体戦のメンバーに選ばれたのだ。だが、対戦相手は桂香と幼馴染で、実力は彼女のやや上を行く二階堂。
将棋の神様の3人にそそのかされて、二階堂が不得意にしているらしい横歩取りを特訓してきた歩。しかし、横歩取りは相手が拒否すれば成立しない戦法。しかし、将棋の神様たちは絶対に横歩取りにする秘策があるというのだが。。。
という感じの、本格的将棋小説+ラブコメです。
江戸時代に作られた将棋の駒に宿った将棋の神様の指導を受けて成長していく、という筋立ては『ヒカルの碁』を思わせます。
将棋や棋士を題材にしたミステリには、斎藤栄先生や内田康夫先生、本岡類先生の作品などがありますね。ずいぶん昔に、将棋にはまっていた頃、そうした小説を集めていました。しかし、ラノベではこういうのは初めてかもしれませんね。
帯には高橋道夫九段の推薦文もありますし、将棋をたしなむ人にとっては面白いと思います。そうでない人でも、スポ根ものと思えば楽しめるでしょう。ただ、将棋用語に初めて接する人は、(多少解説がありますが)ちょっと面食らうかもしれません。
3人の将棋の神様のうち、出番が多いのは香です。他の2人は毎度数言しか話しません。もう少しそれぞれの活躍の場がみたいですね。
あと、他の将棋駒、王、金、銀、飛車、角は出てこないのかな?というのも気にかかりますが、設定では3人以外は歩の実力のなさに愛想を尽かしているで出てきたくない、ということみたいです。ただ、最後に少しだけ王(というか、女王)が出てきます。
少しだけ残念なのは、香が話す関西弁が中途半端なことですね。関西弁のところどころに標準語が混じっています。この辺りは徹底してほしかったですね。
いずれにせよ、歩と桂香の恋の行方とか、将棋団体戦のこれからとか、他の将棋の神様はどんなキャラなのかとか、色々と楽しみなシリーズになりそうです。
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