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2014年2月14日 (金)

青葉優一『王手桂香取り!』

 いま大阪にいます。それで、発売後まもない本書を手にしました。

 第20回電撃小説大賞・銀賞受賞の作品です。将棋がテーマということで、発売を一番楽しみにしていました。

 中学1年の上条歩(あゆむ)は、3年の先輩で将棋部部長の大橋桂香にほのかな恋心を抱いていた。だが、五段の実力がある桂香に対し、歩はまだ初段。もとより色恋には関心がなく、日々将棋漬けの桂香を振り向かせるには、将棋の実力を付けて桂香に認めてもらうことだった。

 そんな歩は今日も町の将棋道場で小学生に負けていた。しかし、その子はプロ棋士六段の息子で、アマ散弾の実力者だった。ただ、その子は親と同様に対局態度が悪く、少し懲らしめてやりたいと思っていた。だが、将棋ではまだかなわない。

 そんな思いで負けて家に帰った歩の前に、突然3人の女の子たちが姿を表わす。関西弁を話す奔放そうな女の子、着物姿でお人形のような女の子、そしてヨーロッパ貴族の娘のように着飾った女の子。実は、3人とも将棋の神様で、それぞれ香、歩、桂馬の化身なのだった。

 3人は歩とプロ棋士の息子の対局を観戦しており、やはり一度彼にギャフンと言わせたいから、言う通りに指せという。それで、プロ棋士相手でさえ飛車落ちで勝てるという3人のヒントで、歩は雪辱を果たす。

 それから3人は、桂香が振り向いてくれるよう、歩に実力を付けさせるために特訓してやるという。そうして成長していく歩は、とうとう全国中学校将棋団体戦のメンバーに選ばれたのだ。だが、対戦相手は桂香と幼馴染で、実力は彼女のやや上を行く二階堂。

 将棋の神様の3人にそそのかされて、二階堂が不得意にしているらしい横歩取りを特訓してきた歩。しかし、横歩取りは相手が拒否すれば成立しない戦法。しかし、将棋の神様たちは絶対に横歩取りにする秘策があるというのだが。。。

 という感じの、本格的将棋小説+ラブコメです。

 江戸時代に作られた将棋の駒に宿った将棋の神様の指導を受けて成長していく、という筋立ては『ヒカルの碁』を思わせます。

 将棋や棋士を題材にしたミステリには、斎藤栄先生や内田康夫先生、本岡類先生の作品などがありますね。ずいぶん昔に、将棋にはまっていた頃、そうした小説を集めていました。しかし、ラノベではこういうのは初めてかもしれませんね。

 帯には高橋道夫九段の推薦文もありますし、将棋をたしなむ人にとっては面白いと思います。そうでない人でも、スポ根ものと思えば楽しめるでしょう。ただ、将棋用語に初めて接する人は、(多少解説がありますが)ちょっと面食らうかもしれません。

 3人の将棋の神様のうち、出番が多いのは香です。他の2人は毎度数言しか話しません。もう少しそれぞれの活躍の場がみたいですね。

 あと、他の将棋駒、王、金、銀、飛車、角は出てこないのかな?というのも気にかかりますが、設定では3人以外は歩の実力のなさに愛想を尽かしているで出てきたくない、ということみたいです。ただ、最後に少しだけ王(というか、女王)が出てきます。

 少しだけ残念なのは、香が話す関西弁が中途半端なことですね。関西弁のところどころに標準語が混じっています。この辺りは徹底してほしかったですね。

 いずれにせよ、歩と桂香の恋の行方とか、将棋団体戦のこれからとか、他の将棋の神様はどんなキャラなのかとか、色々と楽しみなシリーズになりそうです。

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2013年12月31日 (火)

青木祐子『ベリーカルテットの事件簿』

 久しぶりのコバルト文庫です。あの青木祐子先生が今度はヴィクトリア朝のイギリスを舞台にミステリ小説を書いたということで、期待をして読みました。

 新興ブルジョア階級から地位を築いたカルヴァート家に仕えることになったメイドのシャノン。ちょうどそのとき、カルヴァート家の長男ディヴィッドは没落しかけた名家の令嬢メイベルと婚約パーティを行うところだった。

 しかし、カルヴァート家に前日からメイベルと一緒に泊まっていたその親友のノエルが、頭痛がするといって自室から出てこないのだ。

 そんな中、カルヴァート家の次男ロイがやってくる。新人小説家の彼は、大切な本がしまってある自分の書斎をノエルの寝室にしていると聞いて、いてもたってもいられなくなったのだ。自分の本が勝手に処分されるかもしれないと。

 だが、ロイが書斎に入ろうとすると鍵がかかっている。そこでマスター・キーを使って開けようとすると、メイベルについてきたメイド、アガットに女性の寝室に男が入るのは不作法だとたしなめられる。

 そこでロイはシャノンを利用して、こっそりアガットの目を逃れて本だけでも退避させようと画策する。なんだかんだで書斎に入る羽目になったシャノンだが、部屋に入ると、ベッドの上でバラの花に囲まれて息絶えているノエルの姿が見つかるのだった。

 死因は毒。部屋はドアも窓も鍵がかかっているため、頭痛薬と間違って毒を飲んだか、自殺だと思われた。しかし、シャノンとロイは、他殺の疑いをもつ。では、この密室で誰が、いったい何のためにノエルを殺害したのか?

 と、こんな感じで、完全にミステリ小説のノリで話が進んでいきます。もちろん、事件の謎を解くのは、家の主人であるロイではなく、メイドのシャノン。

 密室の謎も事件の解決も、丁寧に書かれてはいますがちょっとひねりが少ないので、本格推理マニアにとっては物足りないでしょうが、ライトなミステリとしてはなかなか面白いものでした。ロイとシャノンの仲がどのように進展していくのか、続編も楽しみです。



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2013年10月13日 (日)

赤月黎『魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ』

 最近のラノベ・ミステリの収穫と噂の作品。いやあ、これは面白い。ミステリとしてもよくできていて、納得の1冊です。

 魔女の存在が公認されている世界。そこには悪い魔女と、そんな魔女を狩る魔女狩りという2種類の魔女が存在する。

 ところで、悪魔に魂を売る契約を交わすことで魔女となり、魔法の力が使えるが、その魂は必ずしも自分の魂でなくてもよい。そのため、潜在的な魔女を養成する魔女狩り学院では、悪魔に魅せられて悪い魔女になった生徒が他の生徒の魂を奪うという事件が頻発していた。

 こうした学院内の事件は外部の警察に頼らず、学院内部で処理されるのが慣例になっていた。というのも、ここを卒業して本物の魔女狩りの資格を得るには、自分の力だけで魔女を見つけ出し、事件に用いられた魔法を暴きだすことが必要だったからだ。

 だが、誰が魔女で、どんな魔法を使ったのかは容易に分からない。ただ、推理するしかないのだ。そして、魔女を突き止め、使った魔法をその魔女に復唱させ自白させることで、その魔女は魔力を永久に失い、事件解決となる。

 そんな設定の下、学院で事件が起こる。女生徒が殺害されるのだが、顔はつぶされ、手足の指紋は焼かれてなくなっていた。誰がいったい何のために? 容疑者と目される演劇部の女生徒は、殺害時刻にはアリバイがあった。

 だが、彼女が部室にいる時に一緒にいた別の女生徒がまた同じ手口で殺害される。部室は内側から鍵がかけられており、合い鍵は職員室にしかなく、持ち出された形跡もない。すると、現場で気絶していたその演劇部の女生徒が犯人であるはずだが、第1の殺人のアリバイがあるため断定できない。同じ魔法が使われている以上、同じ魔女の仕業のはずなのだが。

 とりあえず、彼女を「自習室」に軟禁することになった。ところが、今度は彼女が殺されてしまう。だが、そのとき部屋にいたのは、彼女の無罪を信じ、一緒に自習室に入っていた別の女生徒だった。では、この女生徒が犯人なのか? しかし、彼女も第1の殺人の時、明確なアリバイがあったはず。。。

 と、顔なし死体と密室殺人が組み合わさった連続殺人が起こります。この事件を解決するはめになるのは、かつて魔女に殺されかけて、魂の半分を失った少年クオン。彼は、その欠けを学院の生徒である魔女狩りセツナに埋めてもらう代わりに、その僕となっていたのだった。

 他にも魅力的なキャラがたくさん登場して、ラノベらしい軽快なノリと、新本格ミステリ風の猟奇的でトリッキーな事件。そして、事件解決後のどんでん返しに、さらにおまけの真相と、ミステリ・ファンにはサービス満点な作品となっています。非常によくできた作品だと思います。お勧めです。

 続編が書かれるような雰囲気があります。次回も楽しみです。

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2013年10月 7日 (月)

岬鷺宮『失恋探偵ももせ』

 第19回電撃小説大賞、電撃文庫MAGAZINE賞受賞作。というよりは、ラノベ・ミステリの近年の収穫という噂に惹きつけられて読んでみました。

 が、ちょっと想像したものとは違ったようです。

 ただ一人のミステリ研究会員となった野々村九十九は、入学式で偶然出会った後輩、千代田百瀬の勧誘に成功する。しかし、彼女は部室に来ても、数ある古典ミステリには見向きもせず、ひたすら少女漫画ばかり読んでいる。

 そんなある日、百瀬は九十九に意外な提案をする。「失恋探偵を始めましょう」と。要は、失恋した男女が知りたがっていること(例えば、自分が振られた本当の理由を知りたい、など)を調査するということ。

 そうした彼らのもとに訪れる男女。そんな彼らに百瀬は調査した痛ましい結果を情け容赦なく告げていく。いつしか、そんな百瀬のやり方についていけなくなった九十九は、クラスメートの女子が失恋の真相を知って心を傷けられたのを見て、失恋探偵はもうやめよう、部室にも来ないでくれという。

 ところが、百瀬は部室どころか学校にさえ来なくなり、さすがに心配になった九十九は百瀬の自宅を訪ねる。そこで、二人は知ってしまうのだ。自分自身でさえ気付かなかった想いに。。。

 と、こうして物語を要約してみるとわかるのですが、これは限りなく恋愛小説ですね^^;

 一応、連作短編的にいくつかの失恋事情の調査と推理があるのですが、これはほとんどお飾りのような感じの安易な造りで、途中から誰でも真相に気づけるようになっていて、謎解きの醍醐味は得られません。

 また、百瀬と九十九の気持ちも、本人たちは気付いていないが、最初から読者も含めて周りにはバレバレなので、ラストまで来てもそれほど感動がないというか。。。

 読みやすい作品ですし、ライトな推理っぽい話プラスど真ん中の恋愛小説を読みたい人にはいいかもしれません。実は、2巻の方がいいという噂もあるので、機会があれば読んでみたいと思います。

 ラノベ・ミステリで傑作なのは、やはり在原竹広さんの『ようこそ無目的室へ!』(HJ文庫)じゃないかと思います。こちらも連作短編なのですが、最後にそれぞれの短編に密かに散りばめられていた伏線が、あっ!という感じで回収されて仰天させられます。若竹七海さんの作品を思わせる作品です。お勧めです。

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2013年10月 1日 (火)

ラノベ・ミステリ小説

 わたしが読むラノベは、ミステリ風かSF風のものが多いです。それで、ここ最近のラノベ・ミステリでは収穫であると、とかく噂の米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい』(HJ文庫)をついに読みました^^;

 まあ、HJ文庫ですし、タイトルからしても、あらすじからしても、大変けしからん内容の本だと覚悟して読みました。

 お話の大筋は、女子中学生の処女を奪うことだけに執着している「せんせい」が、故郷の島に帰って来て、勤務する中学校の文芸部員を次々とレイプしていく。そんな彼の犯行を隠蔽しようとする比良坂れい。彼女の姉はかつて「せんせい」にレイプされた末に自殺したのだったが、彼女は「せんせい」が好きだという。なぜ彼女は「せんせい」の犯罪を隠蔽し続けるのか? 姉の死の本当の真相は? そもそも「せんせい」って、誰?

 というお話をメインに、文芸部女子同士たちの野球対決や、野球部員とのバスケ対決で、いかに運動音痴の文芸部女子たちが比良坂れいの「場外乱闘」的奇策で勝利するかが見どころでもあります。

 ところどころに散りばめられたミステリ・ネタも楽しいですし、メインの謎を巡って後半に繰り返される多重解決と叙述トリックなど、著者のミステリ愛がほとばしる作品だと言えます。

 ミステリで真相のネタばれとかはタブーなのでこれ以上書けませんが、楽しめたのは事実です。女子中学生が本書を手にとって楽しめるかは、はなはだ疑問ではありますが^^;

 さて、次はもう一つ話題のラノベ・ミステリである『失恋探偵ももせ』を読もうかと思います。

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2013年9月26日 (木)

亜空雉虎『双星の捜査線』

 第19回電撃小説大賞、最終選考落選作。

 感覚強化・記憶増大などの機能を持つ「ユニット」を脳に埋め込むことでエンハンスメントできる社会。しかし、ユニットの挿入で人格変容事故を起こすこともある。そんな世界で、19個ものユニットを埋め込んだ「検体」が、警察の特殊犯罪捜査班C.S.C.に配属されることに。それは12歳の外見に、人格変容事故の結果、精神年齢5歳のマリィという少女だった。

 その「相棒」にさせられたのが、サトウ・シンゴ巡査。成績優秀で、C.S.C.に配属されることを夢見ているが、拳銃を握ると、過去のトラウマのためか、急に目の前が真っ暗になり、気分が悪くなってしまうために、その夢を果たせないでいた。

 そんな彼のあこがれが、C.S.C.のリーダー、バークマン署長。マリィとコンビを組まされたシンゴは、ユニットを多数埋め込んだ女性ばかりをねらう連続殺人鬼、ハリーロイドを追うように命令される。この捜査で成果を出せば、C.S.C.に推薦してもらえるかもしれない。

 そんな期待をもって事件を追い始めたシンゴは、さっそくハリーロイドと対決。死闘の末、得意のジュージュツでハリーロイドを組み伏せたシンゴは、奴から署長の話とはまるで正反対の真相を聞かされることになる。多ユニット保持者連続殺人は、実はC.S.C.が仕組んだ自作自演(マッチポンプ)だというのだが!?

 と、ここまでがお話の半分になります。その後の展開は、実際にお読みください。

 この作品は、エンハンスメントが自在になった近未来の設定が面白いですね。随所にその設定が語られるのですが、字の文での説明がやや多めである感じがします。また、中盤で事件の真相が明らかになってしまうので、謎解きを楽しむという感じでもありません。

 それで、後半にマリィらがユニットの能力全開で大活躍か? と期待したところ、実はあまり活躍しません。という意味で、ちょっと拍子抜けしました。ユニットを駆使したバトルは、ハリーロイドの捕物で描かれるだけで、後半はある意味、ふつうの刑事ドラマになっています。

 マリィや、指名手配犯にかけられた賞金を狙うバウンティ・ハンターのエルなど、ラノベに典型的な女の子が登場しているのですが、主人公とデレっとするところはほとんどなく、ここも残念な感じがしました。

 事件の真相も面白いのですが、その黒幕の動機が最後まで納得できませんでした。黒幕自身がかつて痛い目に遭っているとか、そういうことがあればよかったのですが。ただのゆがんだ理想論にしか思えなかったですね。

 設定などはとてもよい作品だと思いますが、ラノベとしては、ガジェットや女の子が使いきれていなくて、全体的にもう一歩という感がぬぐいきれない作品でした。

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2013年9月25日 (水)

龍門諒・恵広史『Bloody Monday』

 三浦春馬くん主演のドラマを見ていました。このドラマ、脇役がすごい魅力的だったですよね。わたしは、折原マヤ役の吉瀬美智子さんももちろん素敵だと思いましたが、Jを演じた成宮寛貴くんが特によかったと思います。

 それで、今更ながらマンガ原作を読んでみました。なるほど、ドラマはかなり原作に忠実に作られていますね。

 この作品の面白さは、個々のハッキング・テクニックもそうですが、やはり騙しあい・化かしあいの頭脳戦にあると思います。まあ、改めてマンガで見ると、「後出しじゃんけん」的なところもありますが、次々と意外な人が実は敵のスパイでしたという展開は、ワクワクしますね。

 ウィルス・テロから中性子爆弾、衛星のハッキングまで、ラストに向かって大道具が駆り出されていくのもよかったと思います。

 ただ、カインとアベルとか、ヤコブとか敵の重要人物の描写がわずかで、彼らにどんな過去があり、なぜ神島紫門に帰依することになったのかとか、わからずじまいで。物語のスケールが大きく、登場人物が多い分、どうしても一人ひとりの描写が薄くなるんですよね。そこはちょっと残念でした。

 TVドラマでは2期もあったと思いますが、そちらも見たのですが、。水沢響役の黒川智花さんくらいしかあまり印象に残っていません。マンガの方は3期(ラスト)もあったらしいですね。今度また見てみます。

2013年9月20日 (金)

『名探偵アガサ&オービル おばあちゃん誘拐事件』

 前回に引き続き、児童文学ミステリです。ミステリ界では最も権威のある賞の1つ、エドガー賞のジュニア部門にノミネートされた作品です。しかも、作者の1人は『ロズウェル 星の恋人たち』原作者。

 すでに第1巻については前回ご紹介したので、今回はエドガー賞にノミネートされた第2巻をご紹介します。

 おしゃべりで元気だけが取り柄のアガサと、その同級生のオービル。ライト兄弟にあこがれて、将来は飛行機を制作したいと思っている彼は、アスペルガー症候群で数学や科学の天才。でも、人の感情を読むのが苦手。

 そんな二人が今回取り組む事件は、アガサのおばあちゃん失踪事件。アガサが住む地域にあるボトムレス湖には怪獣トリクシーが住んでいるという。おばあちゃんは、観光客相手に様々なトリクシー・グッズを販売するショップを経営している。

 いつもは時間に正確に店をはじめるはずのおばあちゃん。ところが、今日は店をほったらかし。しかも、いつも必ず持ち歩いている「ライフライン」であるところの携帯電話も置きっぱなし。カレンダーには外出の予定はなく、ただ走り書きのメモがあるだけ。

「おばあちゃんは誘拐されたんだ!」アガサとオービルは大慌て。さっそくおばあちゃんの足取りを追う。一方、最近この地域では空き巣が頻発しているようだ。こっそり家に忍び込み、家中を荒らした揚句、何も取っていかない。

 アガサたちは、きっとおばあちゃんはその空き巣とはち合わせて誘拐されたんだと推理する。また、捜査の途中で、幼馴染でいじわるなスチュのお母さんが大切にコレクションしている絵皿が盗まれるという事件も発生。やがて、これら3つの事件が1つに繋がり、意外な真相が!

 というお話です。物語は前回よりもずっとこなれていて、読みやすくなっています。とにかく、オービルがいい! アガサは、前作よりは下品な物言いは減りましたが、やはりこれといった魅力に欠けます。

 ミステリの基本を押さえつつ、アメリカのティーンの文化も味わいたい人にとって、なかなか魅力的なシリーズです。また、オービルのアスペルガー症候群にまつわる描写も適切で、こうした障害への理解にもつながると思います。

 残りあと2巻。この後、どのような展開が待っているのでしょうか? 楽しみです。

2013年9月18日 (水)

児童文学ミステリ、2連発

 昨日のお休みの間に、続けて2冊、児童文学系のミステリを読みました。

 まず最初に読んだのが、『タイムスリップミステリー! タイタニック沈没』。これは、「青い鳥文庫」で人気の「タイムスリップ探偵団」のYAバージョンだそうで。女子大生の野々宮麻美さんが活躍する物語になっています。

 というか、YAといえば中高生がターゲット読者なのに、なぜに女子大生? とツッコミたくなりますが。。。

 麻美は、ひょんな偶然からタイムスリップできる機械、タイムスコープを手にしていた。そして、一時はタイムパトロールに加わっていたこともあったが、タイムパトロール内のタカ派とハト派との抗争(?)に嫌気がさして、いまはタイムパトロールはやめている。しかし、麻美をよく思わないタカ派に狙われているようだ。

 ちなみに、タカ派は、歴史改変を防ぐために、タイムスリッパーを見つけ次第捕えることを目的にしていて、ハト派は歴史改変に手を出さない限りはタイムスリッパーを大目に見ている集団だそうです。

 また、麻美は外交官の父に連れられて世界中を旅してきた帰国子女で、各国語がペラペラで、武道にもたしなみがあるというワンダーウーマンです。

 さて、今回、麻美は沈没間際のタイタニック号にタイムスリップする。歴史改変になるため、誰にも沈没するとは言えず、胸が苦しくなる麻美。

 そんなとき、タイタニック号が沈没すると騒ぐ男がいる。船長たちが取り押さえて部屋に閉じ込めた後、交代で見張りをしている間に、その男は何者かに頭を殴られて死亡してしまう。いったい犯人は誰? 何の目的で? その上、麻美は犯行現場で、この時代にあるはずのない本を発見する。それは『タイタニック沈没』。タイムスリッパーが他にもいる? それはいったい誰?

 と、こんな感じでテンポよくお話が進んでいきます。しかも、本文の途中で早くも「読者への挑戦状」が! ただ、本格的な推理はなく、容疑者を一人ひとり尋問する間にわかっていくという感じなので、ミステリ部分はあまり期待できませんね。

 もう1冊が『名探偵アガサ&オービル ファイル1 火をはく怪物の謎』。明るい行動派のアガサと、アスペルガー症候群で科学において天才的才能を発揮するオービルのコンビが活躍するシリーズ。その第2巻は、エドガー賞ジュニア部門にノミネートされ、オナーを受賞しているそうです。つまり、本格派。ちなみに、著者2人のうち1人はTVドラマ『ロズウェル 星の恋人たち』の原作者。

 アガサの通う中学とライバルの中学の間で恒例のアメフトの試合がある。そのハーフタイムに、いつもお互いに相手を驚かすようなサプライズを用意する。

 今年アガサたちの学校では、相手チームのマスコットであるサメのぬいぐるみ(?)が水槽から飛び出す恒例の仕掛けに対し、アガサらの住む地域にいるという怪獣トリクシーの人形も同じ水槽に仕掛け、口から火を吹かせてサメをぶっ壊すという計画。その装置はオービルが頼まれて作った。

 試合の当日、計画通り相手のサメのマスコットを火を吹いて撃退したトリクシー。だが、あろうことか、安全第一に設計して薬剤の量も調整したはずなのに、火はグラウンド脇の倉庫に引火、さらにはグランドの芝が燃えだして、会場は一時騒然に。

 この騒ぎの原因を作り出した角で、アガサとオービルは学校中の嫌われ者になる。自分たちの無実を晴らそうと、再び相手校に忍び込み、証拠を集めをするアガサとオービル。。。というお話です。

 こちらはさすがに本格派で、いかにも怪しい容疑者が現れたり、なるほど!と思わせる科学的な推理が披露されたり、ティーン向けとはいえ十分に読み応えがあります。

 アスペルガー症候群の特徴もうまく取り入れられていて、科学や論理は得意だけど、人の感情がよく読みとれないオービル。事件の捜査を開始した時、アガサから動機と機会、それに証拠がそろうまでは誰も犯人扱いしてはいけないと言われ、これまたアスペルガー症候群らしく、その言葉を最後までしゃくし定規に守ってしまうオービル。本当ははじめから犯人が誰かわかっているのだが、それを口に出すにはまだ証拠がないし、何より人の感情を読み取れない彼は動機というものがわからない。

 この辺り、早く犯人を教えて下さいよとせがむ警察やパートナーに対し、まだ証拠が足りないと煙に巻く名探偵のパロディみたいで面白いですね。いずれにせよ、非常によくできたYAミステリだと思います。

 ただ、一言だけ難を言えば、この物語の随所に出てくる下品なジョークや描写が、日本の読者にはあまりなじまないかもしれないという点です。NHK Eテレ(教育テレビ)で放映されているティーン向けの海外ドラマ(いまだと『アイ・カーリー』かな? 昔だと『フルハウス』『サブリナ』とか)の悪ガキ同士のかけあいを思い出してみるといいと思います。かなり全編にわたってこんなアメリカンな感じのやり取りがある上、主人公のアガサもそんな口調なので、ちょっとう~んとなってしまいますね。

 そう、この物語では、オービルはとてもいいキャラ作りができているのですが、アガサがいまひとつ魅力がないんですよね。それが残念なところですが、ミステリ部分などは実によくできているので、第2巻以降に期待します。

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2013年9月15日 (日)

グリム童話をドイツ語で読む

 先日、久しぶりにドイツ語の勉強をしていると書きました。文法を軽くおさらいして、単語集などを見直して、なにか手頃なテキストから読んでみようと思っていたところでした。

 今回は、目標としてはゲーテの作品とかオペラの台本などを読めるようになりたいので、文学的な作品がいいなあと思っていたので、グリム童話に手を出してみました。

 実は、ずいぶん昔に買ったテキストがあります。郁文堂の独和対訳叢書から出ている『グリム童話』という本です。今回改めて読んでみて驚いたのは、テキストはグリムの原典であって、初級者用に書きなおしたものではないということでした。

 この本は、各ページが3段に分かれていて、上の段が原文、中の段が構文や熟語に関する註釈、下の段が和訳です。また、巻末には接続法に関する解説と、別冊の単語集が付いています。この単語集が素晴らしい。(実は少し抜けがありますが)辞書を持ち歩かなくても、この本1冊で勉強できます。

 他の読本も、この本や、この本がモデルにした欧米のテキストを模範にして、巻末に語彙集を付けるべきです。

 この本のように、テキストに出てくる単語を全部拾うのが面倒ならば(コンピュータを使えば、大した手間ではないと思いますが)、例えば、欧米の本によくあるように、初級文法終了段階で覚えておくべき単語(例えば、独検3級レベルの単語)を除いた単語について、語彙集を作るのでも良いでしょう。

 ただ、往々にして、こうした読本の註釈では、難しい語彙には語義を記したと書いてありますが、実はそれは著者の主観的意見か、著者の学生に使ってみた経験なのか、初級レベルでもわかるはずの語彙に語義があったり、逆に初級レベルでは知らないはずの語彙に語義がなかったりします。こういう不徹底を防ぐためにも、伝統ある独検の出題範囲の語彙をベースに本作りをすればいいと思います。

(同じことは、他の言語の読本についても言えます)

 しかも、こうした読本を出版している出版社では当然検定対策の問題集や単語集を出しているはずなので、そこに載っている語彙は既習のものとみなす、と書いておけばもっと親切ですね。

 こういうことを書くと、学生が辞書を引かなくなるので困るという意見もあるでしょうが、辞書を引くのが面倒で本を読まなくなる方が問題はもっと深刻なので、読本はあくまで読む練習のためであって辞書を引く練習ではないと開き直って、語彙集のついた本を、欧米のようにどんどん出してほしいものです。

 それで話は戻るのですが、グリム童話の原典を読む自信が付いてきたので、全作品が収められた挿絵つきの本を探すと、非常に安いものが見つかります。

 童話とはいえ、やはり語学・語法的に難しいところもありますので、そんな時のために翻訳も手元に置いておきたいものです。はじめは岩波文庫を考えていたのですが、ちょうど出たばかりの挿絵つき1巻本が見つかりましたので、そちらを買いました。『グリム童話全集―子どもと家庭のむかし話』です。日本グリム協会会長と副会長が訳されているので、これ以上に信頼のおけるテキストもないでしょう。挿絵もフルカラーで美麗です。

 これから、ドイツ語原典が届いたら、グリム童話の世界にどっぷりです。

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